正しくない恋のはじまり

「何も知らない、たかが外部コンサルだろう。現場がどれだけ綱渡りで回ってるかも、どれだけ無理を通してここまで持ってきたかも、何も見ていないだろう」

少しずつ理性が効かなくなっている言い方でそう言ってから、ゆっくりと視線がずれた。

標的は───私。


「……藤井。お前もだ」

身体がこわばり、身をすくめた。

「現場の人間なら、どっちを優先すべきか分かるはずだ。帳尻を合わせてでも前に進める局面がある」

言葉が、押しつけるように落ちてくる。

「それを、外から来た人間にいいように振り回されて」

ガタン!と大きな音が響いた。
部長が立ち上がっている。もう、怒りの矛先がこちらへ向けられていた。

「お前は、ここまで乱されなきゃ分からないのか!無能なやつめ!」

机を強く叩く音が、鋭く弾けた。
思わず肩が揺れる。


その瞬間、青砥さんが半歩前に出た。

私と部長の間に入るほど露骨ではない。
でも、明確に、こちらへ圧が直接届かない位置に立ってくれていた。

「藤井さんに向ける話ではありません」

青砥さんの声は抑えられているのに、はっきりした拒絶だった。冷たくて、芯まで冷えるような。

部長がすかさず睨む。

「お前に言ってるんじゃない」

「私にも関係があります」

「は?バカ言うな」

「本件の確認は、私の業務です」

「何を言っている? なら、お前が責任を取るのか?」

「はい。取ります」

間を置かずに言い切る。

あまりにも速すぎる青砥さんのその一言で、空気ががらりと変わった。