正しくない恋のはじまり

ここで途切れさせてはいけない。
私はすぐに首を振った。

「その処理は、記録に残っていません」

気づいた時には、口にしていた。自分でも驚くほど、言葉が止まらない。

一度出たものが、そのまま流れ続ける。

「関連会社であれば、なおさらです。グループ内取引の申請も、再委託の登録も、どちらも存在していない」

部長の顔が歪む。

「後で整えると言っているだろう!」

「その、“後で整える”前提の処理が、すでに逸脱です」

青砥さんが、重ねる。
今度は明確に、逃げ道を塞ぐ形で逆に追い詰めていく。

「承認ログが存在しない以上、“内部調整”という説明は成立しません」

三浦さんが、思い出したようにまた笑った。
取り繕っているとしか思えない、少し切羽詰まったようなそれで。

「ログが抜けただけかもしれないよね?それをそんな大袈裟に…」

「ではなぜこの案件だけで、なぜこのタイミングで、なぜ管理権限アクセス直後に発生しているのか。説明できますか?」

即座に切り返したのは、青砥さんだ。


三浦さんは、もう青砥さんのことは見ていなかった。

「あなた、本当にそれでいいの?」

と問いかけてきたのは、私にだ。

「最初に触ったの、あなただよね。責任、全部来るよ」

言葉が、静かに刺さる。
さっきまでよりも、ずっと現実的な形でそう言われると、苦しくもなる。

それでも───決めて、ここに立っている。

視線を逸らしたら、ここまで来た意味が全部消える気がして、真っ向から三浦さんを見つめ返していた。