正しくない恋のはじまり

誰も答えない。
でも、全員が同じものを見ている。

ばらばらだった違和感が、一本の線で繋がっていく。

資金の流れ。
契約外の処理。
抜け落ちた承認。

そして、───それを通した、“誰か”。


部長が、初めて言葉に詰まった。

その沈黙の中で、はっきりと分かる。
自分が、どこに立っているのか。

怖さは残ってはいた。でもむしろ、輪郭をはっきりと持ち始めていた。


部長の沈黙が、空気をさらに重くする。
その重さを断ち切るように、三浦さんが口を開いた。

「……じゃあ、逆に聞くね」

声の温度には、さっきまでの柔らかさがもうない。
薄く削ぎ落とされていた。

「それ、本気で監査に回すつもりなの?社内で止めることもできるのに」

三浦さんのそれは選択肢の形をしているのに、どちらにも私に抜け道を与えない。
「藤井さん」と、名前を呼ばれるたびに、心臓が痛くなる。

「これ、あなた一人で触っていい領域だと思ってる?」


正しい問いではある。だけど、それだけじゃない。
揺らすための言葉でもある。