正しくない恋のはじまり

「論点は一つです。この案件の資金移動と承認処理に、説明不能な点がある」

余計なものを削ぎ落として、芯だけを残したような言い方だった。

「このまま進めるのであれば、責任の所在を明確にする必要があります」

「責任の所在だと?」

「こちら、承認ログの管理履歴です」

青砥さんがパソコンの画面を切り替え、並ぶ数字を見せた瞬間、息を呑む。

見覚えのあるはずの画面なのに、今はまるで別のものみたいに見えた。


「本来この処理は二段承認です。しかしこの案件だけ、一次承認が飛んでいる。それにもかかわらず、最終処理は通っている」

淡々としているのに、ひとつひとつの言葉が確実に積み重なっていく。
どこにも行けないように、潰していくように。

「さらに、この承認直前に管理権限でのアクセスが一度だけ入っています」

威勢が良かったはずの部長の顔色が、はっきりと変わった。
同時に、せわしなく動いていた三浦さんの指先が、机の上で止まる。
ほんのわずかな変化なのに、それだけで十分だった。

青砥さんは、二人の少しの隙を細い針で通した。

「誰が、この権限を持っていますか?」