正しくない恋のはじまり

私はひとつ息をついたあと、向こう側にいる二人に向き直った。

「……整合が取れていません」

最初に出た言葉は、驚くほど静かだった。
揺らさない、ここだけは。

「契約と支払いと承認の流れが、繋がっていません」

指先が、わずかに震える。それでも、止めない。

「この状態で進めるのは、リスクが大きいです。……だから、」

一度だけ、言葉を選ぶ。

「このまま通す判断は、できません」


私がこの決断を口にするのを、待っていたように。
青砥さんがはっきりと告げた。


「本件、このまま監査に上げます」

彼はまっすぐに、迷いのない断定を下した。

「関連資料は、すでに保全済みです」

と、パソコンにそっと手を置く。


その意味が、一拍遅れて全員に届いた。


“監査”、“保全済み”。
───もう、戻せない。


部長の表情から、完全に余裕が消えた。
あんなに笑みを浮かべていた三浦さんの顔から、それがなくなった。

青砥さんの発した言葉の破壊力が、部屋中に影響していた。

誰も言葉を出せない。

場の流れが、完全に変わっていた。