正しくない恋のはじまり

そのとき、三浦さんがふっとこちらを見る。
私と目が合った。

「藤井さん」

名前を呼ばれた瞬間に、空気が一気にこちらへ寄った。

外で起きていたはずのやり取りの渦が、突然、自分の足元にやってきた。

「あなたは、どう思う?本当にここまで大きくするつもりだった?」

選択を促す声。
でも実際には、私だけを取り囲む圧。

「止めたら終わるよ」

やさしい話し方なのに、その中身は重い。

「ここまで積み上げたものも、現場も。たぶん、あなたの立場も。分かってやってるの?」


……そんなの、分かっている。
ずっと分かっていたことを、ただ、言葉にされただけなのに。

急に目の前に投下されて、現実になる。

「それでも、そっちに行くっていうの?」

“そっち”という言葉は、私の隣にいる青砥さんのことを指している。

青砥さんは、何も言わない。
助けないし、代わりに答えもしない。

───自分で、決めてください。

そう聞こえてくるような、私と彼のその距離。


怖い気持ちは、ずっと変わらない。

でも、青砥さんがいる場所が、逃げ場じゃなくて、ちゃんと“支え”になっていることも分かる。

一人じゃない。
自分の足で立って、戦うと決めたんだ。