正しくない恋のはじまり

「承認がないなら、事後処理で整えればいい話じゃないですか」

反論する三浦さんの口調があまりにも自然で、気を抜いていたら、それで済むような錯覚さえ生まれそうになる。

彼女はそうやって今までもやり過ごしてきたのだ。
そういう手口で。
ただし、今は無意識に声が揺らいでいる。

その揺らぎを、青砥さんはちゃんとつかまえた。

「事後処理を前提にした資金移動自体が不適切です」

彼は一歩も引かない。


「……いい加減にしろ」

部長が軽く机を叩いた。
鈍い音が、空気を震わせる。

肩が、わずかに跳ねてしまった。

私と違って、青砥さんはまったく動じない。
顔色も変えないし、身動ぎひとつしない。

「外から来た立場で、現場も知らずに───」

「事情の話はしていません。私がしているのは、処理の話です」

真正面から、ためらいなくぶつかっていった。

「事情があるなら記録に残すべきです。残っていないなら、それは説明ではなく“隠蔽”です」

「ちょっと!…言い方、気をつけてもらえる?」

三浦さんの止めに入る声に、初めてはっきりとした棘が混じる。

明確に、部長も三浦さんも、私の隣にいる青砥さんへ意識が向いていた。
それは───“敵”として。


「では、他に適切な表現があればご教示ください。私には他に思い浮かびませんので」

冷静で余裕のある彼は、最初から部長たちに逃げ道を用意していないようだった。
逃げようとしても、絶対にここから出さない。

にじみ出る、“正しさ”の一貫性。