正しくない恋のはじまり

「私の判断です」

意を決して答えると、向こうにいる部長が冷たい視線を私に向けてきた。

「余計なことをしたな」

まだ始まったばかりだというのに、胸がきゅっと縮まる。
その部長の横で、三浦さんがトントンと肩を叩いて笑った。

「まあまあ。最初からそう言わなくてもいいじゃないですか」

やわらかい声。
けれど、空気は一切緩まない。それどころか、むしろ研ぎ澄まされていく。


三浦さんは私を横目で見てから、部長の方へほんのわずかに身を寄せた。
耳元で、低く何かを囁く。
顔を近づけた部長が、小さくうなずいていた。

ほんの一瞬の、ささいなやり取り。
なのに、その距離の近さが、妙に引っかかる。

仕事だけじゃない空気が、そこに混じっている気がした。

───違う。
今は、そこじゃない。

思考を切る。


「藤井さん?」

三浦さんが、こちらを向く。

「どこまで見たの?あらためて説明してくれない?」

やさしい声の中に潜む、底知れないなにか。
嫌なものが含まれているのは感じる。

ある程度、部長にも説明はしているだろうが、ここでまた私に言わせるそのいやらしさ。