正しくない恋のはじまり

じゃあ、青砥さんは───

何を知っていて、
どこまで分かっていて、
ここにいるんだろう。


彼はいつもと変わらない表情で、パソコン作業を再開しながら続ける。

「この案件は、最初から“確認する前提”で入っています」

“確認”。
その言葉だけが、妙に引っかかった。

「……確認、というのは?」

問い返した声が、自分でも少し頼りなく聞こえた。

青砥さんは一度だけ視線を外して、すぐに戻す。

「内部の動きを見ています」

それだけ。
説明は、それ以上続かない。

でも、その短い言葉の中に、さっきまで感じていた違和感が静かに形を持ちはじめた。


距離の取り方。
必要以上に踏み込まない態度。
それなのに、要所だけは外さない指摘。

全部、繋がる。


「必要なら、止める」

淡々としたひと言。
彼の短いそれが、やけに重く響いた。

───止める、なんて。

それって、どこまで?
どこからが?

問いかけは頭の中に浮かぶのに、声に出すことができない。