正しくない恋のはじまり

「同じ処理が、過去案件でも繰り返されています」

該当箇所をクリックして、開いた。

日付、金額、振込先。
ざっと数字と文字が並んでいる。

「契約上の委託先と、実際の支払い先が一致していないものが、少なくとも三件。たぶん、まだあります」

空気が、急に変わるのを肌で感じた。

「形式は異なりますが、途中で別口座に分けている点と、その処理に対応する承認記録が抜けている点は共通しています」

いま一度、息を吸う。
前の自分に、戻ろうとは思わない。

「……これは、意図的に行われていると思われます」

視線を上げると、三浦さんがこちらを見ている。
どこか揺らいでいるようで、それでもまだ、なにか糸口を探っているような目をしていた。

彼女がなにも言わないなら、もういっそ。
全部、言ってしまえ。


「この小さなズレが積み重なれば、いずれ全体が崩れます。だから───」

喉が、少しだけ震える。
それでも、止めなかった。

怖いけれど、でも、私はもう、目を逸らさない。

「だから、このままは、絶対に無理です」


その瞬間、三浦さんの顔から、不自然にずっと浮かんでいた笑みが消えた。

無表情。
いや、それよりも冷たい。温度のない顔。

ここに来た時の余裕が、ほんの少しだけ剥がれていた。


短い沈黙を残した。

そして、彼女は髪をかき上げてさっきより大きなため息をついた。

「……すぐ戻るから」

と淡々とした声。
私が開いたままの画面を一瞥して、

「いったん、失礼するわ」

そう言って、資料室を出ていった。