正しくない恋のはじまり

沈黙が、地鳴りのように揺れる。揺れているのは、たぶん私だけだ。

感情を表に出したら、負けなのに。こういう時の対処法なんて、分かるわけがない。

「それってさ───」

三浦さんは少しだけ首を傾けて、視線を固定される。

「仕事だけで説明つく?」


耐えきれなくて、顔を背けることしかできなかった。

そんな私を、当たり前に彼女が逃がすわけもない。
畳みかけてくる。

「なんとか言ったらどうなの?」

柔らかい声のまま、追求が止まらない。
指先に力だけが込められる。痛くても、緩めることはできなかった。

「ちゃんとしてる時ほど、逆に隠せてないよ。自覚ないの?」

“自覚”。
それは、言われなくても分かっていた。
指摘されてもなお、隠せていないことも。


「ちゃんとしてますよ、藤井さんは」

そこへ、低くてぶれない青砥さんの声が隙間に落とされた。
彼は一歩、三浦さんの方へ踏み出していた。

「この会社で誰よりも真面目で、誰よりも“見ている”」

その言葉は、評価でも庇いでもない。
ただ、事実として置かれる。

「いつも、真摯に仕事に向き合っています。それに───」

青砥さんは、私の方は一度も見なかった。

「彼女は、“それ”に向き合うことで、自分を追い詰める。その上で、正しく判断しようとする人だ」

彼の言葉を聞き、三浦さんの顔色が変わった。
貼りつけたような笑顔が、どこかぎこちないものへと。