正しくない恋のはじまり

ふとドアが開く音がして、はっとして振り返った。

「───やっぱり、そこ見ましたか」


青砥さんがドアの近くに立っていた。
彼は少しドアの外の気配を確認したあと、そっと閉めて中に入ってきた。


言葉が出ないまま視線だけが揺れると、青砥さんは何も言わずに歩み寄り、いつもの距離で止まって画面に視線を落とした。

「…同じ構造ですね。複数案件で繰り返してる」

淡々とした声。前から知っていたのかと思うほど、落ち着いている。
私はまだ胸が騒いでいて、うなずくことしかできない。

「……はい」

青砥さんは操作には触れない。

ただ、事実をなぞるように画面を見ている。

「この再委託先……、関わってますね」

彼と私の視点が、一点に止まる。

名前は出さない。
とはいえ、それで十分だった。

心臓が、さっきよりも強く鳴った。

「……やっぱり、そういうことなんですよね」

無意識にそう言ってしまい、自分でぎゅっと息を飲んだ。
私の様子に気づいてたのか、青砥さんがわずかにこちらを見る。

「藤井さん、気づいてました?」

「……なんとなく、です」

曖昧な答えを口にした。
ただ、否定はしない。
なにしろ、もう目の前に事実として浮かび上がってしまっているからだ。

青砥さんはまた視線を画面に戻し、

「……そうですか」

と、それ以上は何も言わなかった。