正しくない恋のはじまり


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デスクに戻っても指は動かず、開いたままの画面は一行も進まないまま止まっていた。

メールの下書きと添付ファイル、その横にある「送信」の文字だけがやけにくっきりと浮かび上がっている。


決めなきゃいけないのに、何も決められないまま、浅い呼吸だけが続いていた。

───どうしよう。
今日中に、これを通さなければいけないの?
でも、通したら……。

カーソルをじっと見つめて、目が離せない。



そのとき。

「藤井さん」

呼ばれて顔を上げると、青砥さんがこちらを伺うように立っていた。

一瞬で心臓が跳ねるのに、それを表に出す余裕はない。

「この資料、少し確認させてもらっていいですか?」

周囲にも届く距離の、完全に仕事の声。

「……はい」

うなずいて椅子をわずかに引くと、青砥さんが隣に立つ。

彼は画面を覗き込んで、そのまま淡々と口を開いた。

「この支払いログなんですが」

と、指先がモニターの一点を示す。

「ここ、前回のデータと差分出てますよね」

心臓が強く鳴る。

「…はい。そこは、確認中で…」