正しくない恋のはじまり

「例の資料、進んでるのか?」

部長が、単刀直入に切り出してきた。

「……確認中です」


言いながらも、本当はとっくに“確認している”段階じゃないことはお互いに分かっているはずだ。

“決めきれていない”、の言い換えをしただけ。
もう、今は意味が違う。

「確認?」

足を組んでいた部長の眉が、わずかに動く。

「ここまで来て、まだその段階か?」


分かっている。分かっていて、あえて止めているところ。

彼らがそこを突いてくることも、読めていた。

「……最終の整合性を見ているんです」

口にした瞬間、自分でも分かる。
これは、説明ではない。時間を稼ぐための言葉だ。

部長がため息のような息をわざとらしく吐いて、じろりと私を睨んできた。

「青砥の影響か」

心臓が強く跳ねた。