正しくない恋のはじまり

説明しながら、ふと気づく。

言葉を選ばなくてもいい。
どこまで説明して、どこから省略できるのか。

それを考えなくても、通じる。
前提が、共有されている。

ほんの一瞬だけ、気を抜きそうになってしまった。

その感覚に、自分で戸惑う。

「……ふーん」

三浦さんが、小さく息を吐いた。

そして、ほんの一瞬だけ、視線が止まる。

私ではなく青砥さんに。


会話の速さ、間の取り方、補い方。
確認するまでもない。

───もう、出来上がっている。


そう理解したような、静かな目だった。


「よく見てますね、二人とも」

柔らかい声。
けれど、その奥にあるものは、さっきまでと同じではない。


「───いえ、通常の確認です」

すぐに返した。

それでも三浦さんは、もう一度だけ青砥さんを見る。
確かめるように。

そして、すぐに視線を外した。

「そういうの、いいと思います」

にこりと笑った。

「案件、終盤ですし」

言葉を重ねる。

「詰めるとこ、ちゃんと詰めないとね」

彼女は、それ以上は何も言わない。踏み込んでこない。


会議は、そのまま続く。

けれど、さっきまでと同じ空気ではない。
見えない線が、ひとつ引かれたみたいに。

その線の位置を。
この場で、はっきりと認識しているのは───、


三浦さんだけだった。