正しくない恋のはじまり

「ちょっと、いいですか?」

三浦さんの声が入る。

空気が、ほんのわずかに揺れた。

「今のやり取りなんですけど」

にこやかな表情のまま、資料をペンで軽く叩く。

「杭基礎に切り替えた場合、施工コストは確かに抑えられるんですが、その分、工期延びません?」

想定していた指摘だった。

「延びます。ただ───」

言いかけた瞬間、

「工程、詰めてますよね」

という青砥さんの声が、隙間を埋めるように重なった。

ほんの一瞬だけ、言葉がぶつかりかけて、止まる。
どちらが先でもないまま、自然に続きが繋がっていく。

「はい。外構と一部重ねて進める想定です」

自分でも驚くくらい、迷いがなかった。

「……リスク、上がりますよ?」

三浦さんが、わずかに首をかしげる。

「雨天時の遅延とか、現場干渉とか。どうするつもりですか?」

「予備日を確保しています。加えて施工順を調整して、干渉リスクは最小化しています」