正しくない恋のはじまり

「その“構造側のコストダウン”ですが」

静かに差し込まれる声。
視線が、自然とそちらへ流れる。

「基礎形式、変更してますよね?」

青砥さんだった。

考えるより先に、言葉が出る。

「はい。直接基礎から杭基礎へ一部切り替えています。地盤条件の再評価で」

彼は資料に目を落としたまま、ペンをくるりと回した。

「支持層の深度、再測してます?」

「してます。ボーリングデータ更新済みです。支持層はGL-7.2で安定しています」

「N値は?」

「平均で35以上確保できてます」

間を置かずに返す。

一瞬だけ、彼の視線が上がった。私を見る。

言葉はない。
でも、それで十分だった。

確認は終わった、という合図だけが、静かに交わされる。

「……なら、この数値で問題ないですね」

椅子にもたれながら、彼がうなずく。

会話は、それで終わった。
自然に。何もなかったみたいに。


───のはずだった。