正しくない恋のはじまり

廊下の空気が、さっきよりも少し冷たい。
そのまま歩く。

背後で、ドアが開く音がした。

足が一瞬だけ止まる。

でも、振り返らない。
見たら、なにかが決定的になる気がして。

そのまま、歩いた。

歩きながら、ようやく気づく。

さっきの会話でもない。
誰に見られていたかでもない。

───どうして、ここに来たのか。

それが、引っかかっていた。

指先に、力が入る。

───確認したかった?
違う。

───納得したかった?
それも違う。

名前をつけるのを避けながら、それでも分かってしまった。

───会いたかったんだ。


その事実が、ゆっくり落ちてくる。
逃げ場のないところまで。

静かに、確実に、胸の奥が熱を持つ。
言葉にしなければよかった、と思うのに。


もう、見て見ぬふりはできない。