正しくない恋のはじまり


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午前の会議が終わっても、頭の中は静かにならなかった。

議事録をまとめようとして、画面を開く。
さっきの資料を呼び出して、該当箇所を確認する。

────“前提が現状と乖離している”。

文字にすると、ただそれだけの話なのに、カーソルが点滅したまま動かない。
一行も、進まない。

青砥さんの声が、何度も繰り返される。

“積み上げたことと、正しいことは別です”。


……分かってる。
そんなこと、もうずっと分かってる。

それでも。
“ここまで来てるんです”と、そう言った自分の声も、同じくらい残っている。

どっちが正しいのか。
考えようとすると、どこかで思考が止まる。
正しさだけの話じゃない気がして、その先の言葉が見つからない。


指先が、キーボードの上で止まっていた。

……確認、しなくちゃ。

何を、とは言わない。
ただ、そう思った瞬間には立ち上がっていた。

「あかり?」

隣の席から声をかけられて、肩がわずかに跳ねる。

「……ちょっと、確認したいことがあって」

曖昧に返して、視線を逸らした。
理由としては、たぶん弱い。

それでも、足は止まらない。
向かう先は、決まっていた。