正しくない恋のはじまり

「……青砥さんは、いつもそうですね」

言ってしまった瞬間、分かる。
これはもう、仕事の言葉じゃない。

「…なにがですか?」

「全部、正しい前提で、正しい顔で、話をする」

言ってから、遅れて気づく。
会議室の温度が、わずかに変わった。

机の下で、手を強く握りしめる。なにかを噛むように。

青砥さんが、ゆっくり息を吐く。

「……それは、業務の話ですか?」

何も言えない。

でも、視線だけは外せなかった。

数秒の沈黙。

「……一度整理しようか」

部長の声が、割って入る。

「論点が混ざっている。本件は持ち帰り、再検討とする」

それで、終わった。

救われたのか、切られたのかは分からないまま。


椅子が引かれる音。資料を閉じる音。
誰も何も言わない。

ただ一人。

三浦さんだけが、静かにこちらを見ていた。

その視線だけが、ほんの少しだけ“仕事の外側”にあった。


“仕事の話”にしては。

温度が、おかしかった。