正しくない恋のはじまり

朝のオフィスの空気は、昨日と何も変わらなかった。

同じ照明、同じ音、同じ匂い。
窓の外は相変わらずビルが立ち並び、高層階にあるこのフロアと空が近く感じる。

それなのに、どこかだけがずれている気がする。まるで、パズルのピースが何ピースか欠けているような。
しっくり来ない、はまらない。


…だめだ、考えちゃだめ。

そう決めて、パソコンを立ち上げた。
画面を開き、資料を確認する。いつものルーティン。

指はいつも通り動くのに、感覚だけが少し鈍い。

平常心。問題ない。処理できる。
そうやって、仕事をしながら内側を整えていく。


「藤井さん、定例もうすぐ始まります」

後輩の子に声をかけられて、私は腕時計で時間を確認した。
もうこんな時間か。

「うん、いま行く」

と、ノートパソコンを閉じてそのままそれと資料を手に取り、席を立つ。


会議室へ向かう足取りは、いつもと同じはずだった。
どこか胸騒ぎがするような気がしたのを、気づかないふりして。