正しくない恋のはじまり

「現場はもう動いています。ここで止めれば、関係各所への影響も大きい」

「影響が出る前に止めるのが仕事です」

即答だった。

一切の迷いがない。
その温度に、息が詰まる。

「……青砥さんは、いつも正しいですよね」

思わず、こぼれた。
ただの同意じゃないことは、自分でも分かっている。

青砥さんの目が、ほんのわずかに細くなる。

「でも、それって」

視線を外さずに続ける。

「ここに関わってる人たちの判断を、全部否定することになりますよね」

空気が、さらに張り詰めた。

「現場で積み上げてきたものを、全部切るってことになりませんか?」

三浦さんの口元が、わずかに動いた。
何か言いかけて、やめる。

青砥さんは、数秒だけ沈黙した。

そのあとで、まっすぐこちらを見る。

「はい。必要であれば、切ります」

迷いはなかった。

その一言で、何かが崩れる。