正しくない恋のはじまり

「……前提が乖離している、というのは」

自分の声が、思ったより静かに出た。

視線が集まる気配がする。それでも、止めない。

「どの時点を基準にしているんですか?」

青砥さんの目が、まっすぐこちらを見る。

「当初計画です」

迷いのない答え。
それでも、私は一歩踏み込んだ。

「それなら。今の状態は、“調整済みの前提”です」

三浦さんのメモを取る手が、ふっと止まる。

「自治体との協議も、地権者対応も、全部その前提で積み上げてきてます」

「その結果が、今のズレです」

被せるように返ってくる。

「積み上げたことと、正しいことは別です」

一瞬、言葉に詰まった。

「……でも」

うまく選べないまま、口に出る。

「ここまで来てるんです。前提を戻すのは現実的じゃありません」

部長は腕を組んだまま黙っている。
三浦さんも何も言わない。ただ、こちらを見ている。

逃げ場がない。