正しくない恋のはじまり


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会議室に広げられているのは、現地の写真じゃない。

区画図、用途配置案、地盤調査のボーリングデータ。
それから、自治体との協議履歴。線と数字だけの、無機質な資料。

でも、その図面の上に、私は“もうあるはずの街”を見てしまう。

この区画には低層の商業棟。角にはコンビニ、その奥にカフェ。通り沿いにはガラス張りの店舗。
まだ何もないはずの場所に、人の流れと生活の気配が浮かんでいた。


「では、本題に入ります」

部長の声で、思考が引き戻される。

「当該案件について、現状の整理を共有します。……三浦さん、お願いします」

「はい」

三浦さんが軽くうなずいて、資料をめくる。

「現在、自治体との事前協議は最終段階。用途地域の調整もほぼ完了しています。周辺地権者との合意も、形式上は問題なしです」

“形式上は”。
その一言に、わずかに引っかかった。

「一方で、先日共有された再評価資料ですが」

三浦さんが、青砥さんへ視線を向ける。

「リスク指摘がいくつか出ているみたいですね。青砥さん、説明していただけます?」

「はい」

ペンを回していた手を止めて、青砥さんが口を開いた。