正しくない恋のはじまり

空いていた小会議室に入る。
ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

二人きりの小会議室は、静かだった。

話さなきゃと思っていたのに、いざ彼を前にすると、何から言えばいいのか分からなくなる。
青砥さんは何も言わず、壁に背中をつけたまま私を見ていた。

その温度が、よく見えない。

でも、呼び出したからには、なにか言わないと。
ここまで来た意味がなくなる。

「……私だけですか?」

声が少し揺れる。
それでも、止めない。

「こんなに、動揺してるの」

言葉にした瞬間、自分の中の誤魔化しがひとつ消えた。

青砥さんは一瞬だけ息を止めたように見えた。
けれど、すぐにいつもの温度に戻る。
目を細めて、首をわずかに傾けた。

「……そう見えますか」

静かな返し。
はぐらかしているのか、本気なのか分からない。

「見えます」

すぐに返す。
そこに迷いはなかった。

「普通すぎて、逆におかしいです」

少しだけ声が強くなる。

「昨日のこと、なかったみたいにしてるの」

青砥さんは一瞬だけ視線を落として、それから戻した。

「……してませんよ」

低く、はっきりした声だった。

その一言で、胸の奥が大きく揺れる。

「じゃあ、なんで……」

勢いのまま一歩近づいてしまう。
自然に距離が詰まった。

「なんでそんな、普通の顔してるんですか?」