正しくない恋のはじまり

ふと、さっきの言葉がよぎる。

『見えていないふり、してますよね』


思わず、唇を噛む。
視線を落としたまま、誰にも見られていないことを確認した。

呼吸、ちゃんとする。酸素を回す。
そんなことを思いながら、ほんの一瞬だけ目を閉じた。

───知らない、見てない、見えない。
私は、何も分からない。

そう思い込むみたいに、ゆっくりと息を吸って吐いた。


「…よし」

小さくつぶやいた自分の声が、思ったよりも頼りなかった。


胸の奥に残った違和感は、消えなかった。

────最初から、消える気がしなかった。