正しくない恋のはじまり

その曖昧な境界の中で、時間だけが止まっているみたいだった。

青砥さんが、わずかに視線を落とす。

それから、静かに息を吐いた。ほんの一瞬だけ、迷ったようにも見えた。
それでも───彼の顔は、少し前とはまったく違う顔をしていた。


「……もう、戻れないですね」


低くて、やわらかい声だった。責めるでもなく、諭すでもなく。
ただ、受け入れるみたいに。

その一言が、静かに胸の奥に落ちた。
否定できない。
……したくない、とさえ思ってしまった。

さっきまで怖かったはずなのに。


今は、少しだけ違う。
離れてしまった距離が、ほんの少しだけ惜しいと感じる。

触れていた場所に、まだ熱が残っていた。


それを消したくないと思ってしまう自分に、気づいた。