正しくない恋のはじまり

沈黙が落ちた。

まだ戻れる、最後の数秒。


───それでも、もう無理だった。


次の瞬間、強く引き寄せられる。

体がぶつかるみたいに距離が詰まった。
背中に回された腕が、そのまま逃げ道を塞ぐ。

二度目のキスは、浅くなかった。

触れた瞬間、呼吸が崩れる。


離れる間もなく重なり続けて、どちらが引き寄せているのか分からなくなる。
ほどこうとするたび、余計に絡まった。

青砥さんの腕が、さらに強く引き寄せる。
逃がさない、というより───もう、離す気がない。

もう片方の手が、頬から首筋へと滑った。そのまま指がかかって、わずかに引かれる。

それだけで、角度が変わる。

一気に、さらに深くなる。


息が続かない。
考える余裕なんて、どこにもない。
それでも、離れようとは思わなかった。

むしろ、離れたくないと、どこかで思っている。


───どうして、この人なんだろう。
もっと正しい選択肢は、いくらでもあるのに。


……全部、今はどうでもいい。
触れている間だけは、他のことが全部遠くなったからだ。

逃げようと思えば逃げられるはずなのに、離れるという選択肢だけが消えていく。