正しくない恋のはじまり

「私…、あなたに会ってからずっと怖いです」

ちっとも読めないその謎めいた姿を、どこか探しているいつかの自分を思い出していた。
もう、誤魔化す気はない。

「ちゃんとやりたいのに…、壊れるかもしれないし…」

まとまらないまま、涙とともに言葉もこぼれる。

「疑ってるのに、信じたいし…」

自分でも整理できていないままの本音。
でも、それでもいいと思ってしまう。
この人の前なら、ちゃんとしていなくてもいい気がしてしまうから。

「…逃げたくないのに、ずっと怖くて」

青砥さんは遮らない。
ただ、全部を受け止めるみたいに、そこにいる。

「……分かってます」

重なる声は、低くて、静かで。
逃げ場をなくす温度を持っている。


次の瞬間───、
触れかけて、止まる。
ここで、やっと目が合った。

ほんの数センチの距離で、青砥さんの指が、迷う。
そのまま引くこともできたはずなのに。

わずかに息が揺れて、それから、頬に触れられた。

やさしいのに、引かない手。

「…それでも、こうしてここにいるじゃないですか」

見透かされている。

逃げていないことも。
逃げられないことも。

何も言えない。
でも、目だけは逸らさない。