正しくない恋のはじまり

「逃げる形で正しさを選んでも、後で自分が納得しません」

まったく逸らすことなく言い切られて、胸の奥が強く打った。

分かってる。それは、最初から。
衝動に駆られて逃げ出そうとした、今さっきも、分かってはいた。

「……じゃあ私は、どうしたら」

「ちゃんと戦える形で出してください」

その言葉で、何かが切り替わった気がした。


“今すぐ出すかどうか”じゃなく、“どう出すか”。


視界が、少しだけクリアになるのが分かった。

指先の震えが、少しずつ収まっていく。
青砥さんの手が、ゆっくりと離れる。

その瞬間、少しだけ名残を感じてしまう自分にも気づいた。


青砥さんは、もう何も言わない。
これ以上、踏み込んでこなかった。

ただ、背中で一歩引いて距離を取るのは感じた。


「明日、朝一で資料見せてください」

と、それだけ言って、青砥さんの気配がなくなる。
足音が、一定のリズムで遠ざかっていった。


結局、手を重ねていても、目を合わせるだけで精一杯だった。