正しくない恋のはじまり

青砥さんの手が、私の隙をついてマウスを投げ出した。デスクの奥へ音を立てて逃げていく。

転がっていったマウスが、あまりにも遠くて。
そして手は握られたままだった。

「今のこれは、あなたの判断じゃない」

まっすぐにそう言われ、どうしようもない気持ちになった。
重ねられた手を見下ろして、私は吐き捨てた。

「知ってるような顔しないでください」

こんなことを、言うつもりはなかった。思っていることと違うことが口をついて出てきてしまう。

「私が決めて、やろうとしたのに、どうして」

「決めてない」

被せるように青砥さんに遮られ、私は口をつぐんだ。

「怖いから、今ここで終わらせようとしてるだけです」


違います、と言いたかった。言えばよかったのに。
否定しようとして、できない。
なにも違わない。

今ここで出せば、正しいことをした、で終われる。
それ以上、考えなくて済む。

誰かに責任を預けられる。そう思ってしまった。

「それ、責任を取る動きじゃないです」

青砥さんの声は相変わらず冷静で、こちらの逃げ道を先に潰してくる。

視界が揺れた。涙が、また滲む。

「じゃあ、もう、どうすればいいんですか……」

絞り出す。
もう、取り繕えない。強がることもできない。