正しくない恋のはじまり

青砥さんの手は、動かない。強く握っているわけじゃない。
でも、びくともしない。

「いま出したら、潰されます」

淡々とした声。
こんな時でも、感情は乗っていない。事実だけ。
揺さぶられているのは、私だけだ。

「それでも」

と、食い下がるしかなかった。
ここで引いたら、全部が終わる気がする。

「これ、通したら……」

声の震えは、もう抑えきれない。

「私、分かってて通すことになります」

初めて、はっきりと言ってしまった。


口にして、空気が変わる。
わずかだけれど、張りつめた。

青砥さんの手の力が、少しだけ強くなるのを感じる。

「……はい」

短い返答が、耳元で聞こえた。
それだけで、胸が締め付けられる。

「じゃあなんで……!」

思わず、声が上がった。

「なんで止めるんですか……?」