正しくない恋のはじまり

送れば、このプロジェクトは進む。
全部、問題なく進んでいく。

───でも、もし、これで。

青砥さんに、軽いと思われたら。

仕事だからって、そういうことをする人間だと、思われたら。

……違うのに、そうじゃないって、言えないままそう見られたら。


胸の奥が、ぎゅっと縮む。
どうして、引っかかるのが“そこ”なんだろう。

仕事の話なのに、正しいかどうかの話なのに。
一番怖いのが、思いとどまっている理由が、それって。


首を何度も振った。

これは仕事だ。感情じゃない。
何度もそう言い聞かせるのに、全然納得できない。


キーボードの上に、こらえていた涙が、ひとつふたつ、落ちる。

それで分かる。
もう、誤魔化せない。

……なんで私、あの人のことなんて、考えてるの。


息を整えて、静かに画面に視線を戻した。

“_check_ver.2”のファイルの上で、カーソルが点滅している。急かしているように、早く、と。

ゆっくり、マウスを動かす。
添付。ファイル選択。

ここを、クリックすればいい。


それだけだ。
───それだけなのに、ぴたりと止まった。

指が、動かない。


ほんの少しだ。
ほんの数ミリの、それだけの距離なのに、越えられない。

押せばいいのに、分かってるのに、───押せない。

呼吸がまた、浅くなった。
ただひたすら、時間だけが過ぎていく。