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夜のフロアは、昼よりも静かで、少しだけ嘘をつきやすい。
もう誰もいないオフィスに、ひとりきり。
自分のデスクにひとつだけついた明かりが心の置きどころみたいに感じる空間。
キーボードの打鍵音だけが響いていた。
カタ、カタ、カタ。
一定のリズムで、乱れない。迷わない。
───そういうふうに見える。
画面には、例の資料。
修正済みの数値。整えられたグラフ。
きれいに揃った前提条件。
誰が見ても、問題はない。むしろ、よくできている。
これなら、通る。
……通していいの?
指が、一瞬だけ止まる。
その一瞬を、すぐに見なかったことにした。
打つ。進める。終わらせる。それが、仕事。
ふと別ファイル“_check_ver.2”を開いた。
本来の数値と見比べてみる。
ほんの数パーセントの違い。とはいえ、無視できない差。
収益予測の伸び率も、契約率の前提も、地価補正の係数も。
全部、ほんの少しだけ“いい方向に寄せてある”。
喉の奥がひりついて、息が浅くなってくる。
画面を見つめたまま、動けなくなった。



