正しくない恋のはじまり


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扉を押して、フロアに戻った。

白い光。
同じ配置のデスク。
同じ音。
朝からなにも変わっていない。

───なのに、さっきまでいた場所と確実に違っていた。

空気が、少しだけ重い。
違う。重いんじゃない。自分の中に、見えない何かが残っている。それが、邪魔をしている。


自分のデスクに戻り、音を立てないように椅子に座った。
周りに、席を外したことも、戻ってきたことも悟られないように。


画面には、さっきまでの資料が時を止めてそのまま存在していた。カーソルが、まだ一定のリズムで点滅している。
待っているみたいに。
───進めろ、とでも言うように。

私は何も考えないようにして、キーボードに手を置いた。

考えなければ、いい。考えたら、止まってしまうから。
ただひたすら、指示通りに入力する。
削って、整えて、合わせる。

数字は正しい。ロジックも通っている。整合性も取れている。

……それなのに、どこか薄い。
何かが、抜けている気がして、手が止まりそうになる。
そんな自分に気づいて、ふるふると首を振った。


考えない。考えないで、進める。
それでいい。
それが、今の正解。

また呼吸が浅くなってきた。
必死に深呼吸をしていると───。