正しくない恋のはじまり


••┈┈┈┈••

午後のオフィスは、いつもよりざわついていた。
午前中に出した資料が、もう次の工程に回っているらしい。

「この案件、スピード感ありますね」

誰かの声が遠くで聞こえる。

「いい感じで進んでるし、このままいきたいんだろうね〜」

そんな軽い調子の会話の中に、自分の名前が混ざっているのを耳にしてしまった。

「藤井さん、さすがだよね」

「まとめ方、分かりやすいし」

「助かってるよね、絶対」

───“助かってる”。
また、その言葉。朝に、三浦さんからも言われた。

私は画面を見たまま、小さく「ありがとうございます」と返した。
ちゃんと、笑えていると思う。たぶん。



さらに、新しい修正依頼が届いていた。

【搬入経路:記述をさらに簡略化】

【日照:補足削除でOK】

【外構:金額のみ残す】

メールを読み終えて、カーソルが画面の上で止まる。

……削る。
また、削る。
ずっと、削っている。

必要なものじゃなくて、“都合の悪いもの”を。