正しくない恋のはじまり

「あかり、なかなか順調そうだね」

上辺だけ見ている隣の席の同僚が、軽い調子で声をかけてきた。

「この案件、結構早いよねぇ」

「……うん」

自然に返せた、と思う。
笑うことも、できている。ちゃんと、普段通りに見える。

…それが余計に、気持ち悪い。



画面に視線を戻して、開いている“提出用_計画資料_ver.2”のページに並ぶ、その中の数字たち。

8.0m。
4.0m。
一式。

全部、自分で整えたもの。全部、“通るための形”。

カーソルをスクロールさせる。
違和感は、もうない。綺麗に揃っている。問題は、どこにもない。

───だからこそ。

「……通る」

小さく、つぶやいた。
自分が口にしたその言葉が、ずしんと重くのしかかる。


ふと、別のフォルダに目がいく。

“”_check_ver.2”

開いていないのに、そこにあると分かる。
昨日の夜の自分が、見ないことにしなかった記録。

そこに手を伸ばしかけて、止める。
たぶん、今、これを開くべきじゃない気がした。

ここで見てしまったら、バランスが崩れる。
仕事が進まなくなるだけじゃない。
“通す側”では、いられなくなる。