正しくない恋のはじまり

【日照条件:意図的に8.0mへ統一(実測9.8mとの乖離)】

【搬入経路:記述削除→リスク非表示】

【外構費:内訳削除→後調整前提】

打ち込むたびに、心臓が強く鳴る。息もどんどん浅くなるのが分かった。


これは、単なるメモじゃない。
───証拠だ。


私はファイル名を変更した。

“_check_ver.2”

指先が、明らかに震えている。でも、止めない。
保存ボタンを押して、画面の中に確かに“残る”、間違えていないという感覚。


ここまでやって、ふっと周囲を見渡す。

気づけば、ほとんど誰もいなくなってしまった。
静かなオフィスに、数人しかいない。

遠くで、清掃の音がかすかに聞こえる。

それだけ。それなのに。
どこかで、誰かに見られているような気がした。

気のせいだと分かっているのに、消えない感覚。
これはたぶん、自分がやっていることが“正しいこと”と“正しくないこと”の狭間にいるからだ。


取り残された室内で、小さく言葉にする。

「……きっと、これでいい」

その声は、思ったよりも静かだった。


……でも、確かに、自分で選んだ。


モニターの光が、やけに白く見える。
その中に二つのファイルが並んでいた。

“通すための資料”と、“見逃さないための記録”。

その間に、自分がいる。


私はマウスから手を離し、椅子にもたれた。
天井の白い光を見上げる。


───たぶん、私はひとつ、踏み出した。
そう思った。