正しくない恋のはじまり


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その日は、青砥さんは来ていなかった。

自分の手帳に書かれた予定表に“AM 会議”の文字。
空っぽの彼のデスクと、手帳を見比べる。

青砥さんが不在の会議が、間もなく始まる。
“彼がいない”というただの情報のはずなのに、自分の周りだけ空気が重くなった。

一人で、私に何ができると言うのだろう。



午前の会議は、小会議室で開かれた。

反対意見を言う人がいない。遮る人がいない。
そうなると、結論だけが先に置かれて、そこに合わせるように話が整えられていったのだ。


「この数値でいく」

部長が迷いなく、その場で言い切った。
質疑応答なんてもちろんなく、確認でもない。
ただの、決定だった。

「日照のシミュレーションは、この条件で問題ないですね?」

「はい」

三浦さんが即座にうなずく。
腕を組み、完璧に整えた笑顔で。揺れは一切ない。


私は手元の資料に視線を落とした。

【隣接建物高さ:8.0m】

違う。現地で見た高さは、もっとあった。
だけど、この場で言い出せるだろうか。
視線をちらりと室内に巡らせる。

部長、三浦さん、営業担当、現場補佐、そして私。
うつむいて、手をぎゅっと握る。

この中で、私一人で…本当に戦えるの?