正しくない恋のはじまり

青砥さんはもう一度、画面に視線を戻す。

スクロールもしない。ただ、並んでいる項目を一瞥するだけ。
それなのに、全部を把握している気がした。

「ここ」

彼が指で、画面の一箇所を軽く示す。

【外構費:一式計上】

「後で、必ず動きます」

「はい」

即答してしまった。
分かっている。そう、彼の示したそこは“逃げ道”だ。

「ただ、今はまだ、触らない方がいい」

青砥さんがゆっくりとした口調でそう言うので、思わず顔を上げた。

「え?」

「出すタイミングじゃない」

たしかに彼が、はっきりと言い切る。
私は一瞬、言葉を失った。


出さない?
このまま、黙っている?


「……でも、このままだと」

「通ります」

被せるように返ってくる。
断定。

「だからですよ」

その一言で、空気が変わる。

「通した後の方が、逃げられない」


心臓が、大きく鳴る。

───この人、最初から、“その先”を見ている。

止めることじゃなくて。
逃がさないことを考えてる。

言葉が出ない。