正しくない恋のはじまり

この人に嘘はつけなかった。
青砥さんはすぐに小さくうなずく。ただ、それだけ。
責める気配も、驚く気配もない。

ただ、そこに“あるもの”として受け取っている。

「“違和感”で止めてないですね」

視線が、ゆっくりとこちらに向く。

「ちゃんと、根拠になってる」

その一言で、胸の奥が強く打つ。


褒められたわけじゃない。
評価されたわけでもない。

ただひとつ、“見えているものを、同じように見ている人がいる”。
それだけで、息がしやすくなった。


「……まだ、確証はなくて」

言いかけると、青砥さんが首を振った。

「十分です」

短く、切る。

「この段階でそこまで落とせてれば」

言葉が、そこで一度止まる。何かを選ぶような間だった。

「───見えてますね」

その言い方は、今度はわずかに温度が乗っていた。

私は何も言えなくなって、ただそこに立つのが精一杯だった。
ずっと募っていた不安が、少しだけ軽くなる。