正しくない恋のはじまり

席を離れて、数分。
給湯室から事務所へ戻ってきたとき。

ふと何気なく向けた私のデスクの横に、人影があった。
その姿に、息が止まりそうになる。


青砥さんだった。
背を向けたまま、私のパソコンの画面を見ている。

閉じずに席を外した自分の不用意さと、詰めの甘さ。逃げ場がない。


足を一歩、前に踏み出そうとして、止まる。

声をかけるべきか、
取り繕うべきか、
しっかり隠すべきだったか。

どちらにしても、もう遅い。
全部、見られてしまったのだから。


「藤井さん、───これ…」

青砥さんが、画面から目を離さないまま言った。
いつもの低い声なのに。
今日はなぜが、感情の温度が分からない。

「いつから見てます?」

尋ねられて、コーヒーで潤したはずの喉が、急にひどく乾く。
私は一瞬だけ迷って、それから答えた。

「……この間の、現地視察の日からです」