正しくない恋のはじまり

喉の奥が、少し乾く。
ふと、少し前の夜の自分を思い出す。

何かがおかしいと思って、言葉にはできなくて。
それで意を決して残した、“_check”と名付けたファイル。

そのファイルに、そっとカーソルを合わせた。

ファイルを開いた先で、私は新しく行を追加した。


【日照条件:隣接建物高さの不整合(8.0m / 実測9.8m)】

指が、少し震えた。でも、止めない。

【搬入経路:道路幅4.0mに対して4t車想定→余裕なし】

【外構費:一式計上→詳細不明・後調整余地あり】


ひとつずつ、書き込んでいく。

これは、ただのメモじゃない。
“見ないことにしない”ための記録。


ふと、誰かが背後にいるような気配を感じて、急いで振り返る。

誰もいない。
気のせいだった。


……どうしてだろう。
さっきまで、確かに“見られていた”気がした。
私はゆっくりと息を吐いて、画面に向き直る。

そして、小さくつぶやいた。

「これは、偶然じゃない」

答えは、まだ出ていない。
そうだとしても、もう、引き返せないところまで来ている気がした。