正しくない恋のはじまり

青砥さんは煙草をひと息吸うと、ふっと煙を吐いた。

「…あなたはさっきの違和感、言語化できますか?」

彼が先に切り出してきた。

いきなりの本題。私は一瞬だけ黙った。
頭の中では、ずっと考えている。
でも、それを“言葉にする”となると、途端に曖昧になる。


「……完全には、まだ」

すぐに整理できるほど、簡単なことではない。素直にそう答えると、青砥さんは小さくうなずいた。

「それでいいです」

否定も、補足もない。
それなのに、その一言だけで、胸の奥の何かが少しだけ軽くなる。

「藤井さんのさっきの指摘、筋は通ってました」

わずかに間を置いて、続けられた。

「……ちゃんと見てるんですね」

その一言が、なぜか少しだけ、引っかかった。


でも、───よかった。

胸の奥で、すとんと何かが静かに落ちる。
認められた、と思った。
大きな言葉じゃない。褒められたわけでもない。

それでも、“間違っていない”と言われた気がした。