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会議が終わったあと、私は一度デスクに戻るふりをしてから、フロアの奥にある小さな応接室へ向かった。
使われていない時間帯のその部屋は、いつもより少しだけ静かに感じる。
ドアを閉めた瞬間、外の音が遠ざかった。
同時に、もうどこにも助けを求めることができない気がした。
ひとりきりで、立ち尽くす。
鼓動がだんだん速くなる。胸のあたりを何度か自分で撫でる。
───落ち着こう。
いったん座って、一度だけ深く息を吸って、表情を整える。
なにも知らない顔でいればいい。
いつも通りに、対応すればいい。
ノックの音が、二回。
「どうぞ」
声は、思ったよりもちゃんと出た。
私が立ち上がると、ドアがゆっくりと開いて青砥さんが入ってきた。
一歩、距離を保ったまま、こちらを見る。
逃げ場はないのに、追い詰める気配もない。それが、いちばん厄介だと思う。
「お時間、ありがとうございます」
形だけの微笑みと、丁寧な声。
さっきの会議と同じ、何も変わらない温度。
「いえ、こちらこそ」
視線を外さない。外すと、何かが崩れそうだった。
数秒、沈黙が落ちる。
「まずは座りましょう」
この空気はそのままに、彼はテーブルを挟んで向こう側に座った。
それを見て私も腰を下ろす。



