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視察が終わったあと、解散はあっさりしていた。
「じゃあ、ここからは各自で戻ってください」
部長の一言で、その場の空気がふっと緩む。
現場担当は軽く会釈して車に戻り、三浦さんは誰かに電話をかけながら少し離れていく。
私はその場に少しだけ立ち尽くした。
───現地視察は終わった、はずなのに。
何も終わっていない気がする。
むしろ、始まってしまったような感覚。
胸の奥に残った違和感が、どうにも消えてくれない。
図面と、現地。
数字と、感覚。
“問題ない”という言葉と、“そう思えない自分”。
どれも、うまく重ならない。
「まだ戻らないんですか?」
モヤモヤしている気持ちをほどくように、私の隣にはいつの間にか青砥さんがいた。
さっきまでと同じ、静かな顔。
でも、その視線だけが、まっすぐこちらを見ている。
「…青砥さん。私……」
言いかけて、周りを見回す。
誰かに聞かれたら、どうしよう。そんな思いから、無意識に探ってしまった。
私の迷いに気づいたらしい彼が、煙草を取り出しながら
「ちょっと、付き合ってもらえます?」
と、火をつけて歩き出した。
煙草に付き合うというより、話をするための。
私は慌てて彼についていった。
歩きながら、後方で風の音と、遠のく車の音が聞こえてくる。
もしかしたら、部長たちはもう帰ったのかもしれない。だとしても、ここにいるのは危険だ。
周囲から少しだけ距離を取るように、敷地の外へ出た。



