正しくない恋のはじまり

この間、作ったファイル。

あの中にあった、説明しきれなかった違和感。
それと、今ここで感じているズレが、同じ形をしている。


私たちのやり取りを聞いていた青砥さんが、少しだけ視線を動かした。

「道路幅、ですね」

ぽつりと落とされた。
やはり、彼は同じところを見ている。
私は反射的にすぐに答えた。

「そうなんです。…搬入がギリギリです」

「はい。僕もそう思います」

たったそれだけの会話なのに、背筋がすっと冷える。

図面では成立していた。
けれど、実際に“使う”ことを考えた瞬間、余白や余裕が突然音もなく消える。


「まあ、その辺も含めて最適化していきましょう」

部長が私たちには触れないように、その場をまとめるように手を叩いて言う。
もうその話はいらない、後回しだ、と聞こえるような。

「現時点では、大きな問題はないという認識でいいな?」

確認というより、決定だった。

私と青砥さんの方を、部長はまったく見ていない。むしろ背を向けている。

現場担当が「はい」とうなずいていた。
三浦さんも軽く微笑んで同意する。


誰も、気持ち悪いほどに、深くは踏み込まない。

「……はい」

私も、そう答えるしかなかった。


だけど。

胸の奥で、はっきりと分かっている。


───これは、“問題がない”んじゃない。
───“見ないことにしてる”だけだ。


風がさっきよりも少し強く吹いた。
ロープが揺れて、区画の線がわずかに歪む。

その歪みが、今のこの計画そのものみたいに見えて、私は無意識に目を逸らした。