正しくない恋のはじまり

「この辺までが境界ですね」

現場担当がロープの端を軽く持ち上げながら説明する。

「建物はこのラインで……」

「うん。十分ですね」

言葉を重ねたのは三浦さんだった。
図面をちらりと見ただけで、すぐに顔を上げる。本当に図面を見たのかと思うほど、素早く。

「都内でこの広さが取れてるなら、むしろ好条件じゃないですか?」

ふっと笑って周りに「ね?」と同意を求める柔らかい声。
みんな、彼女の微笑みにつられてだらしなくうなずいて合わせる男性たち。

私はその光景を横目に、違うことを考えていた。

───彼女の、その結論は早すぎる。


誰も言い出さないので、仕方なく私が口を開いた。

「……あの、三浦さん。この奥行きだと」

「日照の話?」

被せるように、三浦さんがこちらを見てきた。
微笑んでいるのに、目だけが笑っていない。

「そこは設計で調整できるわよ。高さ制限もクリアしてるし」

きっぱりと言い切られる。

勇気をだして切り出したのに、そのまま私の言葉は宙に浮いてしまった。