正しくない恋のはじまり

車を降りた瞬間、風の匂いが少し違う気がした。

都内から離れて、約一時間半。
高速を降りてからは、住宅と空き地がまだらに混ざる、どこか中途半端な景色が続いていた。

開発予定地は、その一角だった。


簡易的なロープと杭で囲われた区画。
踏み固められていない土。
ところどころに残る雑草。
整えられる前の、誰が見ても分かる“途中の場所”。


「ここが対象地です」

先に降りていた現場担当が、軽い調子でそう言った。

部長が「なるほどな」と短く返し、その隣で三浦さんがサングラスを外す。

艶のあるネイルが、陽の光を拾ってきらりと光った。
場違いなほど整ったその姿が、逆にこの場所の“粗さ”を際立たせる。


私は少し遅れて車から降り、手元の図面に視線を落とした。

───こんなに、近かったっけ。

隣接する住宅との距離。
道路幅。
敷地の奥行き。
数字は、何度も確認している。

会議でも、問題ないとされていた。

……それなのに実際にここに立つと、数字のはずの距離が、やけに近く感じた。

どこかが、噛み合わない。