正しくない恋のはじまり


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自席に戻っても、すぐにパソコンを開く気にはなれなかった。
手に持ったままの資料が、やけに重い。


『このまま進める』
ときっぱり言い切った部長の声が、まだ耳に残っている。

……わだかまりが、消えない。

小さく息を吐いて、椅子に腰を下ろす。


周りはいつも通りだった。
少し騒がしくて、みんな忙しそうで、誰かが電話していて、どこかで笑っている。

全部、変わらない。

変わってないはずなのに、自分だけが少しだけズレた場所にいる気がする。


ゆっくりとした動作でノートパソコンを開き、立ち上げる。画面が光った。

いつものフォルダを開く。
プロジェクトの共有データ。完成に近づいている資料。

───『このまま進める』


カーソルが止まる。
そのまま、数秒。
動かすことが、できなかった。


「……無理」

ぽつりと、声が落ちた。
誰にも聞こえないくらいの小さな音。

でも、自分の中でははっきりしていた。
このままは、無理だ。